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東京高等裁判所 昭和33年(う)1482号 判決

控訴人 被告人 川口善一郎 外一名

弁護人 一松弘

検察官 大平要

主文

被告人川口善一郎の本件控訴を棄却する。

原判決中被告人小川明に対する部分を破棄し

本件を浦和地方裁判所川越支部に差し戻す。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人両名の弁護人一松弘作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これをここに引用し、これに対して次のとおり判断する。

控訴趣意第二(1) について

原判決が、被告人小川明からウエハー一〇二個(昭和三十年押第二号の九の中数字の記入してあるもの)、ココア一鑵(同号の一〇)、マヨネーズ一壜(同号の一一)、石鹸三四個(同号の一二)、ミルク三鑵(同号の一三)、ココア空鑵二個(同号の一四)、角砂糖一箱(同号の一五)、コーヒー空壜一個(同号の一六)、チーズ空箱一個(同号の一七)、チーズ一壜(同号の一八)、菓子空箱一個(同号の一九)、マヨネーズ空鑵二個(同号の二〇)を没収し、一方追徴額の説明において、「昭和二九年六月以前の取引分については、同年法律第六一号による改正前の関税法第八三条第三項の規定に則り、「原価」にあたる到着価格に相当する金額を追徴し、同年七月以降の分については、東京高裁昭和三二年九月一〇日判決(高集第一〇巻第七号第五九三頁以下)の趣旨に従い、到着価格に関税額を加え、物品税を課せられる物品については物品税額を加え、さらに、これに二割の利潤を加算した金額を追徴することにする」旨判示していることは、所論のとおりである。ところで所論は、前示押収品は、被告人が昭和二九年六月以前にも、又、同年七月以降にも買い受けた品々であつて、右押収品のいずれが六月以前に買い受け、いずれが七月以降に買い受けた分であるか原審の審理において明らかにしていないのであるが、右没収品の買受年月日如何によつて追徴額に相違を来すことは明らかであるにかかわらず、原判決が漫然と同被告人から金三十四万六千五百八十七円を追徴したのは、理由不備の違法がある旨主張するにより、考察するに、原判決書の記載に徴するときは、原判決においては、被告人小川明に対して言渡した前示没収及び追徴に関する法令の適用については、関税法第一一八条第一項及び第二項を適用し、その追徴額の算定については、前掲原判示の方法によつたものであることが窺われるのであるから、同被告人に対する追徴額を算定するには、原判決の認定した同被告人の買受物品のうちから前示没収品を控除した残りの物品についてこれを算出すべき筋合であると考えられるのであるが、右原判示の方法によるとすれば、昭和二九年法律第六一号による関税法改正の前後によつて追徴額に相違を来すべきことは、所論のとおりであつて、原判決書によれば、前記没収物件中ココア、マヨネーズ、石鹸、コーヒー等については、これらと同種類の物品が、昭和二九年六月以前の取引中にも、同年七月以降の取引中にも存することが認められることもまた所論指摘のとおりであるから、まず、原判決において同被告人に対して没収した前掲押収物件が、原判決認定にかかる同被告人の取引中いずれの取引における買受物品であるかを明らかにするのでなければ、該物品の買受が、前示改正法律施行の前後いずれにあたるかが分明せず、従つて、いずれの買受物品中からこれを控訴すべきかがわからない訳であつて、結局、追徴額を算出することができない道理であると考えられるところ、原判決書をみるに、原判決においては、この点につき、前記押収物件が原判決認定にかかるいずれの買受物件に該当するかを明らかにしておらず、従つて、その買受が右改正法律施行の前後いずれにあたるかをも示すことなくして、漫然同被告人から金三十四万六千五百八十七円を追徴する旨の言渡をしていることが認められるのであるから、右追徴額が果していかなる方法によつて算定されたものであるかは、原判決書の記載によつてはこれを知るに由ないものというのほかなく、結局、同被告人に対する追徴についての原判決の主文のよつて生じた理由は、不明であるといわなければならない。してみれば、原判決には、ひつきよう、この点につき判決に理由を附さないか、判決の主文と理由とにくいちがいがあることに帰し、原判決中同被告人に対する部分は、この点において破棄を免れないものというべく、論旨は理由がある。

同第二の(2) について。

原判決が、その理由中、関税法第一一八条第二項の追徴額について、前記のとおり東京高裁判決の趣旨に従い、到着価格に関税額を加え、物品税を課せられる物品については物品税額を加え、さらにこれに二割の利潤を加算した金額を追徴することにすると説示していることは、所論のとおりであつて、これに対して所論は、右法条にいわゆる貨物相当の価格というのは、その貨物の到着価格に関税額を加算した額を指称するものと解すべきであり、右東京高裁の判決は、関税法違反のほか物品税法違反にかかる事案に対するものであつて、本件に適切でないから、原判決が、前示解釈の下に被告人小川から金三十四万六千五百八十七円を、被告人川口から金十六万九千九百六十二円をそれぞれ追徴したのは、理由不備の違法があるか、又は明らかに判決に影響を及ぼすべき法令の適用の誤が存する旨主張するにより、案ずるに、関税法第一一八条第二項所定の「その没収することができないもの又は没収しないものの犯罪が行われた時の価格」とは、そのものの犯罪が行われた当時における国内卸売価格をいうものと解すべきであるから、没収しない犯罪貨物が、物品税法所定の課税物品であり、しかも物品税法に違反して物品税を免れているものであるときは、その物品税相当額をも加算してその犯罪が行われた時の価格を算定すべきものと解するを相当とするところ、本件においては、関税法違反の点のみを起訴されたものであつて、物品税法違反の点については起訴されていないことは、所論指摘のとおりであるけれども、しかし、原判決認定にかかる被告人両名の買受物品のうちには、物品税法所定の課税物品が包含されており、被告人両名において、該物品税を免れていることは、記録上明らかであるから、原判決が右被告人両名に対し、関税法第一一八条第二項所定の追徴額を算定するにつき、前示のように、物品税相当額をも加算したことは、適法であるというべく、従つて、原判決には、この点につき所論のような理由不備の違法又は判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤があるものということはできない。論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 鈴木良一)

弁護人一松弘の控訴趣意

第二点原判決には理由不備の違法があるか又は明らかに判決に影響を及ぼすべき法令の適用の誤が存する

(1)  原判決は被告人小川明から押収に係るウエハー一〇二個(昭和三十年押第三二号の九の中数字の記入してあるもの)ココア一鑵(同号の一〇)マヨネーズ一壜(同号の一一)石鹸三四個(同号の一二)を没収し、一方追徴額の説明において、昭和二十九年六月以前の取引分については同年法律第六十一号による改正前の関税法第八十三条第三項の規定に則り「原価」にあたる到着価格に相当する金額を追徴し、同年七月以降の分については東京高裁昭和三十二年九月十日判決(高集第一〇巻七号第五九三頁以下)の趣旨に従い到着価格に関税額を加え物品税を課せられる物品については物品税額を加えさらにこれに二割の利潤を加算した金額を追徴することにすると説示している。然し前示押収品は何れも被告人が昭和二十九年六月以前にも又同年七月以降にも買受けた品々であつて、右押収品の何れが六月以前に買受け又何れが七月以降に買受けた分であるか原審審理において明かにしていない。右没収品の買受年月如何によつて追徴額に相違を来すことは明かであるに拘らず、原審は漫然と同被告人から金三十四万六千五百八十七円を追徴したのは理由不備の違法があり此の点においても破毀を免れない。

(2)  原判決は関税法第百十八条第二項の追徴額について前示のとおり説明しているが、右法条に所謂貨物相当の価格というのは、その貨物の到達価格に関税額を加算した額を指称するものと解すべきである。原判決援用の前示東京高裁判決の事案は関税法違反の外物品税法違反に係る案件であつて本件には適切でない。原審が前示解釈の下に被告人小川明から金三十四万六千五百八十七円を被告人川口善一郎から金十六万九千九百六十二円を夫々追徴したのは理由不備の違法があるか又は明らかに判決に影響を及ぼすべき法令の適用の誤が存するものとして破棄せらるべきである。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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